大阪高等裁判所 昭和59年(行コ)28号 判決 1984年10月26日
大阪市東区博労町四丁目四二番地
控訴人
駒井美知子
右訴訟代理人弁護士
太田全彦
大阪市東区大手前之町
大阪合同庁舎第三号館
被控訴人
東税務署長
中川清二
右指定代理人
長野益三
松本捷一
藤本義輝
小幡博文
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一 当事者の求める裁判
(控訴人)
1 原判決を取消す。
2 被控訴人が昭和五七年四月一二日付でした控訴人の昭和五四年分、五五年分、五六年分の所得税の決定処分、及び無申告加算税決定処分を取消す。
3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
(被控訴人)
主文と同旨。
二 当事者の主張
原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決五枚目裏三行目の「本件処各処分」を「本件各処分」と改める)。
三 証拠
本件原審記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 当裁判所も控訴人の請求は失当と判断するが、その理由は次に付加、訂正するほか原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決一五枚目裏三行目、四行目及び一六枚目表四行目の「収入金額」を「総所得金額」と改め、同二行目の「しかし、」の次に「納付責任の拡張規定自体は各義務者間の内部的負担割合を定めるものではないのみならず、」と加える。
2 資産所得合算課税制度の下では、主たる所得者の総所得金額に比べて、合算対象世帯員の資産所得極めて多額である場合には、主たる所得者の所得税額がその課税総所得金額を上廻ることがありうる。
しかし、所得税の税率は最高でも一〇〇分の七五であり(所得税法八九条一項)、主たる所得者の負担する所得税額は、その総所得金額と合算対象世帯員の総額につき累進税率を適用して算出した所得税額の全部ではなく、それをその総所得金額と合算対象世帯員の資産所得の比率により配分した額であるから、右のように主たる所得者の所得税額が総所得金額を上廻ることは通常は存しない。
ところが、同法施行令二三二条により、合算対象世帯員の負担すべき割合を算出するに当り、負担割合のうち小数点三位以下は切捨て、その反面その切捨部分の割合は主たる所得者が負担することとなっている。そのため、この切捨ての反面として、主たる所得者の負担比率、負担税額が増加する場合には、主たる所得者の所得税額が総所得金額を超える場合が生じうることになっている。しかし、このようなことは、合算対象世帯員が主たる所得者の総所得金額の数十倍もの資産所得を有しながら、資産所得以外の所得は主たる所得者よりも少ないという実際上は非常に稀な場合にしか生じない。そのうえ、主たる所得者と合算対象世帯員との間に扶養義務があり、合算対象世帯員の所得が大きいときはその扶養義務も大きいことを考慮すると、法の適用上非常に稀な場合に異常な状態が生ずるからといって、そのために資産所得合算制度全体を憲法二九条に反すると解することはできない。
もっとも、このように解しても資産所得合算課税に関する法規の個々の適用結果を憲法二九条に反すると論じることが否定されるわけではないが、本件においての所得税額は、原判決別表1に示すとおり、その総所得金額(給与所得金額)の三分の一以下であって、控訴人主張の諸事情を考慮しても、本件各処分が憲法二九条に反するとは、到底考えることはできない。
二 そうすると控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民訴法八五条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 上田次郎 裁判官 道下徹 裁判官 井関正裕)